職業に上下もなければ貴賤もない。世のため人のために役立つことなら、何をしようと自由である。
しかしどうせやるなら覚悟を決めて十年やる。すると二十からでも三十までにはひと仕事できるものである。それから十年本気でやる。
すると四十までに頭をあげるものだが、それでいい気にならずにまた十年頑張る。すると、五十までには群をぬく。しかし五十の声をきいた時には、大抵のものが息をぬくが、それがいけない。「これからが仕上げだ」と、新しい気持ちでまた十年頑張る。すると六十ともなれば、もう相当に実を結ぶだろう。だが、月並の人間はこの辺で楽隠居がしたくなるが、それから十年頑張る。
すると、七十の祝は盛んにやってもらえるだろう。しかし、それからまた、十年頑張る。するとこのコースが一生で一番おもしろい。
(読み人知らず 「人間の一生」)